限りなく親友に近い友達が「子供がもうすぐ生まれる」っつって、名前を何にしようか悩んでるんですって。
サイコロステーキがテーブルに並んだ瞬間、そんな話をされまして。伝票を目の前で折ったりしながら喋ってきました。
いやー、おかしいなーとは思ったんですよ。「なんで奢ってくれんの?」っつって。
「奢ってくれるならまだしも、財布持たせないってどういうこと?」っつって。ちょっとは警戒するべきだったんですけど、残念ながら面倒な船に乗っちゃいました。限りなく親友に近かった友達が漕ぐ厄介な船に乗っちゃいました。
話を聞くと、どうやら男の子のようで、できればキラキラネーム的なものにはしたくないとのこと。でも「あまりにも周りとの温度差があるとイジメられるんじゃないか?」っていう不安があるって言うんです。
まぁ人の一生を左右する問題ですからね、真剣に考えるのはわかるんですけど、それはちょっと考えすぎじゃないの?っつって。
そんな相談を持ち掛けてきた親友とは程遠い友達は『太郎くん』って言います。立派な名前だと思うんですけど本人は嫌がってまして、息子はぜひともカッコイイ名前にしたいって言うんです。
だから、おりが思うところのカッコイイ名前を挙げたんです。大地とか大和とか。そしたら「名前負けするんじゃないか?」って言い出しまして。
おい、太郎よと。こっからずっと、おりのターン。
ところで、ナリタブライアンって知ってます?中央競馬史上5頭目の三冠馬なんですけど、もう90年代を一世風靡した競走馬と言っても過言じゃありません。
「成田って名字の人は、みんなブライアンって呼ばれてたんじゃないか?」っつーくらいの社会現象を巻き起こしたんですね。言い過ぎかもわかりませんけど。この、ナリタブライアンって名前、カッコ良くないですか?
コレって歴史ありきでカッコイイって思ってるのかどうなのかっつーことが気になりまして。というのは「勝ったからカッコ良く感じてるだけ?」って思う部分もあるんです。売れたからいいけど『ポルノグラフィティ』みたいな。『Mr.Children』みたいな。
例えばナリタブライアンが史上5頭目の三冠馬っつーなら「他の三冠馬には、どんな名前のがいるの?」って思うじゃないですか?他のがみんなカッコイイ名前なら本物じゃね?っつって。
セントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ディープインパクト、オルフェーヴル。ナリタブライアンを含めて、全部で7頭いるんですけど、みんな名前カッコ良くないですか?
サゴジョウマロなんていたら、31歳未勝利レベルだし。だから「勝つべくして勝ってきた」ような気がしなくもないんです。
仮にサゴジョウマロってすっげー強い馬がいたとしてですよ。二冠した後の最後のレースで、たぶん神様の見えないチカラかなんかが働いて、最後には負けると思うんです。
こんな汚点を競馬史に刻ませるわけにいかないーっつって。その点、歴史に残ってきた名馬はみんなカッコイイ。
ディープインパクトなんて、かの武豊騎手がコイツは三冠獲る馬だっつって最初の皐月賞獲ったときに1本の指を立てて写真撮ってるんですね。まずは1つって意味で。
続く日本ダービーを獲ったときは2本の指を立てて写真に写ってるんです。もちろん最後の菊花賞で有言実行の三冠を果たすんですけど、どんだけ深い衝撃与えんの?っつって。
北島康介ばりの有言実行でここまでくると「超気持ちイイ!」です。やっぱね、名前先行でなんかあるような気がするんです。
だからじゃないですけど「名前負けとかそんなんは考える必要ないんじゃないか?」ってアドバイスをしました。ここで、おりのターン終了です。
よっしゃーっつって、これで心置き無く追加注文できるわーっつって、グラタン的なものを追加注文したんですけど、同級生の太郎くんがまだ何か言いたそうでして。
「この際だから言え!」っつったら「カッコイイ名前にしたからカッコ良くなるかっつったら、それは違うんじゃない?そもそも馬と比べないでよ」って言ってきまして。
おい、太郎よと。こっからしばらく、おりのターン。
F1レーサー見てみ?っつって。鈴木亜久里とか片山右京とか佐藤琢磨とかね、もう名前が速いじゃん?っつって。
まぁ外見的なカッコイイってのは名前どうこうじゃないかもしれないけど、真っ直ぐ芯が通った子に育てばそれはカッコイイんじゃねーの?と。だから太郎なりの速さを見つけたらいいんじゃねーの?っつって。
はい、コレ決まった。激しくカッコイイ。伸身の新月面が描く放物線って感じ。
ここで、追加注文したアイスミルクに手を付けたんですけど、知り合いの太郎くんが「もう速さとかどうでもいいから、丈夫な子になってほしい」って言い出しまして。
おりも奢ってもらってるとはいえ、だんだん面倒になってきました。
「だったら武蔵にすりゃ強くなるかもしんないし、なんなら魔裟斗とかでいんじゃね?」って投げやりに言ったんですけど、その知り合いの知り合いは野球やってたのもあって「どっちかっつったら格闘家というよりも野球選手にしたい」だそうです。
「あー、だったら!」っつってまた得意のトークで煙に巻いてやろうと思ったんですけど、どっからどう考えても鈴木一郎が偉大すぎて北島康介ばりの「何も言えねー」で幕を閉じました。